この20点の絵はそれぞれ1ページ大のサイズで画文集「怪物伝説」に掲載してあります。この文は本書を要約した簡単な内容説明です。説明文の無断使用を禁止します。著作権は全て、不二本蒼生に帰属します。

フェニックス

自分の死を予知すると香木を集めた巣の棺を作り、その中に閉じこもり、太陽光熱に焼かれて死ぬ。しかし、その灰の中から幼虫のような雛が甦り、若い鳥となって飛び立つ。そのようにして生死を繰り返す、魂を運ぶ不死鳥。生きる事が困難な現実の世界を自由に生き続けたいと願う人間の心が作った不滅の魂を象徴する鳥なのだろう。
ドラゴン

新約聖書の時代に完全無欠な神の善を強調するため、現実の世界に存在する不都合な部分を割り当てられ、その悪の象徴にされた怪物。その空飛ぶ蛇の怪物への恐怖観念は太古に人類と恐竜が共存し、翼竜に対する人間の恐怖心が人間の遺伝子に組み込まれた事が理由と推察できる。その太古人類の恐怖の記憶が祖先から受け継がれてこの怪物の姿が現出したのだろう。
ユニコーン

ユニコーンの角は解毒作用があると云われ、その角の粉末を飲むと万病に効くと中世ヨーロッパの人々は信じていた。その貴重な角を獲るために、若い女性のフェロモンでユニコーンを騙して誘い寄せる独特な狩の方法が伝えられている。女性が処女の場合は、ユニコーンは女性のそばでおとなしくなり眠ってしまうところを狩人に殺される。女性が純潔でない場合は、ユニコーンは女性を角で突き殺すと云われる。これは聖処女マリアを受胎させる聖霊を象徴しているとされている。
スフィンクス

ギリシァ神話に「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足で歩くものは何か?」と通りかかる人に謎をかけ解けないと食い殺す顔は女、体はライオンの神獣として有名。エジプトのピラミッドがファラオの墓とされる定説から、それを守るように側に建つ冥界の守護神と伝えられてきた。しかし、最新の研究からピラミッドとスフィンクスの存在はエジプト文明より古いことが解明され、エジプトに文明を伝えた神々の人類史以前の宇宙的謎がかけられている。
人魚(にんぎょ)

アンデルセンの「人魚姫」はロマンチックな物語で有名。日本には人魚のミイラとされる剥製が実在し、また人魚の肉を食べた尼僧が800年経っても若い美貌を保ち続けたと云う伝説がある。下半身が魚の人間はギリシァ神話やインド神話にも登場するが、女性の下半身が魚であるイメージは性的快楽を暗示し、お客の人気で成り立つ水商売にとってはお客を誘い込む象徴になっている。
セイレーン

ギリシァ神話に登場する、下半身が鳥の魔女。通りかかる船を魔力のある歌声で誘惑し難破させようとする。同じような魔物にドイツ西部ライン川のローレライ伝説がある。魔力ある歌声は嵐などの海難事故を予言するといわれ、注意を喚起する消防車などのサイレンの語源である。下半身が鳥の魔女は他にもインド神話や日本の仏教にも存在し、共通して甘美な音楽を奏で異界からの音による魅惑と恐怖を暗示する風の象徴である。
マンドラゴラ

中世ヨーロッパの魔術秘法で魔女が若返りや恋の惚れ薬などを作るための薬草。別名マンダラケとも云う。その植物の根が人間の足に似ている。その植物の根には男女それぞれの性器までついていると云われている。マンダラは古代インド仏教の釈迦が悟りを開いた壇に由来して、日本仏教では悟りの世界図を意味する曼荼羅がある。不思議なことに仏教の宝珠の花の名を曼荼羅華と云う。何か共通した、朝鮮人参に少し似た不思議な植物の怪物である。
ペガサス

ギリシァ神話に登場する、空飛ぶ馬。霊感によって、蹄が打った地面から泉が湧き出た故事により、その蹄鉄だけでも知性や幸運などのシンボルになり、自動車のフロントグリルに飾られたりする。陸と空を自由に駆けるイメージから活力や不幸を避けるラッキーなシンボルになった。
ミノタウロス

ギリシァ神話に登場する、迷宮に幽閉された頭が牛である魔人。ギリシァのクレタ文明では牛を神とした秘儀宗教があり、インダス文明に受け継がれ牛はインドでは聖獣とされた。人間が最も一般的に飲む動物の乳が牛乳である事からも、古代に牛と人間が特別な関係にあった事を暗示している。日本仏教の地獄の番人の牛頭(ごず)も頭が牛の魔人である。
牧神パン(ぼくしんぱん)

ギリシァ神話に登場する、葦笛を吹き山羊の角を頭に有し下半身が山羊の牧神。ローマ神話では林野と牧畜を司る半獣の神で、古代から生殖の象徴とされ、古代エジプトでも崇拝されていた。しかし、中世ヨーロッパのキリスト教では性欲の象徴とされ、悪魔を暗示するものとなった。これは聖書のマタイによる福音書にイエスがおとなしい羊と気ままで扱いにくい山羊を差別した事に由来し、山羊の怪物は好色で淫蕩快楽の象徴にされた。
ケンタウロス

ギリシァ神話に登場する、人間の上半身と馬の身体が一つになった怪物。薬草の知識で医術を極め、山に住み棍棒と弓を持ち俊足で狩が巧みな原始の騎馬民族を暗示している。人間の女を強奪する粗暴な性格と月の女神ダイアナのお供をする賢く善良な性格の二面性を合わせ持つ。占星術の射手座は人間の本能対理性の緊張を弓に矢をつがえた半人半馬で表し、動物的欲望と戦う人間の理性を象徴する。
グリフィン

ドラゴンから派生してグリフィンが生まれたと云われ、古代インド・ペルシァ地方で信仰されギリシァに伝わった。空と陸の王者である鷲と獅子の最強合体怪物。ギリシァ神話に2つのグリフォンが太陽と共に天へ上り帰るアポロンの聖獣が登場する。財宝を守る神。力と知恵の象徴。そして教会を暗示する車を牽く聖獣でもあった。しかし、初期キリスト教では悪魔の化身、秘術学の象徴で正反対の意味がある。神にも悪魔にもなる力ある乗り物を象徴する。現代の自動車や飛行機を示唆する怪物。
スカラベ

スカラベは古い英語で甲虫類の総称、日本に生息しない黄金虫である。古代エジプトでは動物の糞を玉にしてころがすこの虫の習性と運行する太陽のイメージとを重ね合わせた。その糞の玉の中から孵化した幼虫は成虫として生まれ出るので復活の象徴となり護符にされた。ジョン・レノンが甲虫(ビートル)の夢を見て啓示を受け当初のバンド名クオリーメンからビートルズに改名したという説がある。小さな甲虫から創造力を象徴した太陽の神がイメージされた怪物である。
鳳凰(ほうおう)

鳳凰の由来は、太古中国の神話的帝王が治める万民が平和で安定した生活を営んでいた時代に飛来した不思議な霊鳥。不死のフェニックスが中国の道教思想に伝わり理想化された吉兆の象徴。戦乱の時代には現れないと云う霊の鳥。品性正しく行いも立派な支配者の治める豊かで平和な国というのは人類史上にあり得ない。その、ありえない理想の願望を象徴化した神聖怪物。
(りゅう)

古代インドの蛇神と古代中国の道教・地相学・風水占術と古代日本の自然神信仰とが融合して仏教伝来に伴い東洋に龍が定着した。動物は横にしか進めないが龍は翼が無いのに垂直に天に昇る。龍に関連して北極星・天・水・生命生産の観念や仏法を守護する逸話が多い。海中や地中や天空に棲むとされる龍の正体は人間などの勝手にならない恐ろしい大自然や宇宙天体の威力を神格化したアニミズムの思想を具現化した巨怪そのものである。
麒麟(きりん)

中国の儒教観念上の理想化された神獣。孔子などの聖人君子が世を治めるときにのみ出現し、輝きながら飛翔する一本角の鹿のような幻の瑞獣。その故事により七福神の福禄寿が鹿を連れているように日本では鹿が神の乗り物とされ神社で飼われている。毎年生え変わり再生する鹿の角から若返り長寿の象徴とされる。突然変異の一本角の白い鹿が神格化されたのではないだろうか。
河童(かっぱ)

日本の古来から知られている、背中に甲羅があり、川や沼に棲み手足に水かきのある、胡瓜が好物な人間の子供くらいの大きさの妖怪。怪力で人間と相撲をとりたがるが、頭に水を溜めた皿があり水をこぼすと無力になる。江戸時代に人間との遭遇が最も多く実在の痕跡が日本各地に記録されている。ミイラといわれる物も現存しているが、その姿は悪魔グレムリンやグレーといわれる異星人にそっくりである。太古に人間と枝分かれ地球以外の星で別進化した水棲宇宙人ではないだろうか・・・
(おに)

古代日本で霊などの姿の見えない存在や山岳信仰の自然神がオニと云われ、死者や悪行の生きている人を鬼が地獄へ連れ去ると信じられた。霊から神になり不吉な恐怖に変身していった。仏教が災厄払いの悪役として奇怪な姿にしたもので、鬼の元来の意味は常人ではない傑出した人物への畏怖や、この世の悪霊を追放する魔除けの存在の意味だった。地方を征服する中央政権や仏教の正当化を強調するために先住民族や異人を鬼と見做した人間の歪んだ心の闇が現出させた。
(ばく)

混同されているが実在する草食動物のバクとは全く別の中国の古書に由来する邪気を食い尽くすといわれる伝説の神獣。唐時代にこの神獣の姿を描いた屏風絵が魔除けにされたと日本の古書に記載されている。日本では室町時代に護符として伝わり、正月の初夢の夜に獏絵を枕の下に敷いて寝ると悪夢を食べてくれるとの有名な俗信があり、江戸時代には病気や災難から身を守ると信じられ旅の御守りや寺社の装飾などに広く用いられた。
ガルーダ

ガルーダは始めヒンズー教の蛇を食べる聖鳥であった。蛇を食用とする事は下等な本能を克服する意味があり、宇宙の創造神が世界を救うために化身したと云う伝承がある。だが、一般的には太陽の神の乗り物と考えられている。現代でもインドネシア航空の名として有名で、太陽神を乗せ永遠に闘う神格的な力として崇拝される。日本へは仏教と共に伝わり、仏教を守護する神像として国宝の京都の寺にある。そして日本で良く知られている天狗の原型の烏天狗でもある。
  
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